F1には10のチームと4社のエンジンサプライヤーがおり、
チーム毎にエンジンサプライヤーと契約しています。
この契約の背景には、F1特有の政治的な動きが多数見られ、
これもF1の一つの魅力となっています。
今回は、このサプライヤー契約の背景について、
ホンダF1第4期を例に解説しようと思います。
エンジンサプライヤーについては以下の記事で解説しておりますので、
そちらをご覧ください。
マクラーレン・ホンダ
ホンダは2015年からエンジンサプライヤーとしてF1に復帰しました。
2014年からハイブリッドという新しいエンジン規格になったため、
1年遅れの参戦となり、ライバルから1歩遅れるスタートとなりました。
マクラーレンへのPU提供となり、マクラーレン・ホンダの再来として
期待されましたが、1年遅れの参戦であることや、
マクラーレンの要求するPU構想である「サイズゼロ」に適合できず
出力不足やトラブルに悩まされ続けました。
2015年シーズン第14戦日本GPにおいて、その出力の無さから
マクラーレン・ホンダのドライバーであったアロンソは無線で
「GP2エンジン!」と叫びました。(GP2とは当時の下位カテゴリー、現在はF2)
このことが契約に響いたかは定かではありませんが、
ホンダとマクラーレン、アロンソの関係が悪化していったと思われます。
マクラーレンは、マシンがストレートで遅く、コーナーで速いというデータから
成績不振の理由はホンダPUのパフォーマンス不足にあるとし、
シャシーは最速であると主張し続けていました。
この主張については、データは事実ではあるものの、
ストレートで遅く、コーナーで速いマシンは、
ダウンフォース量が多く、ドラッグも大きいマシンとも受け取れるため、
シャシーが最速であるという主張には疑問が残ります。
ダウンフォースとドラッグについては以下の記事で解説しておりますので、
そちらをご覧ください。
2017年シーズンを最後にマクラーレンとの提携を解消し、新たに
トロロッソにPUを提供することとなりました。
トロロッソ・ホンダ VS マクラーレン・ルノー
マクラーレンは新たにルノーとの契約を発表しました。
当時、ルノーはトップチームの一つであるレッドブルにもPUを提供しており、
最速のシャシーと主張していたマクラーレン製シャシーとのタッグは大きな注目を浴びました。
これとは対照的に、トロロッソはルノーとの契約を解消し、ホンダと契約を結びました。
半ば喧嘩別れとなった、ホンダとマクラーレンのそれぞれ威信をかけた戦いとして、
2018年シーズンは、トロロッソ・ホンダとマクラーレン・ルノーが注目されました。
開幕戦であるオーストラリアGPにて、マクラーレン・ルノーはアロンソが5位入賞、
バンドーンも9位入賞とW入賞を獲得し、アロンソは無線で
「Now we can fight!(ついに俺たちは戦える!)」と話し、話題となりました。
一方、トロロッソ・ホンダはガスリーがMGU-Hのトラブルでリタイヤ、
ハートレイも唯一のラップダウンとなるなど、厳しい滑り出しとなりました。
MGU-H等パワーユニット(PU)については以下の記事で解説しておりますので、
そちらをご覧ください。
続く第2戦バーレーンGPにおいて、トロロッソ・ホンダのガスリーが
2015年ホンダ復帰以降最高順位となる4位入賞を果たしました。
ガスリーは、レース後に無線で「Now we can fight!」と
開幕戦でのアロンソの発言を皮肉るような発言をしました。
ガスリーにこのような意図があったかはわかりませんが、
この発言に希望を持ったホンダファンも多かったと思われます。
2018年シーズンはマクラーレン・ルノーがコンストラクターズランキング6位、
トロロッソ・ホンダが9位と、マクラーレン・ルノーに軍配が上がる形となりましたが、
マクラーレンはコンストラクターズランキング3位のレッドブル、
4位のルノーに対し遅れを取り、最速シャシーに疑問が残る形となりました。
一方、ホンダは、コンストラクターズランキングこそ低迷したものの、
その信頼性の向上やサポート体制が評価され、トロロッソの姉妹チームである
2019年シーズンからレッドブルとの契約を勝ち取りました。
レッドブル・ホンダ誕生
レッドブルは2018年シーズンまで、ルノーと契約していましたが、
信頼性不足に悩まされており、2019年シーズンから新たにホンダとの契約を結びました。
ルノーはレッドブルから引き抜く形でリカルドとの契約を結び、
レッドブルはトロロッソから2年目のガスリー昇格を余儀なくされ、
ここからドライバー不足に悩まされることになります。
2019年シーズン開幕戦オーストラリアGPにおいて、
レッドブルのフェルスタッペンが3位表彰台を獲得し、
ホンダにとって2008年イギリスGP以来の表彰台獲得という快挙になりました。
レース終盤、3位を走行するフェラーリのベッテルをアウトからオーバーテイクするシーンで
ホンダPUの性能向上を感じさせました。
一方、ルノーのリカルドはスタート時にフロントウイングが脱落し、
母国GPをリタイヤという形で終えました。
皮肉にも、「Gives You Wings」を掲げるレッドブルから離脱した初戦での出来事でした。
2019年シーズンは第9戦オーストリアGPでのホンダ第4期初優勝を含む3勝を挙げましたが、
コンストラクターズランキング3位に終わりました。
2020年シーズンは、フェラーリPUを搭載するチームが軒並み失速したため、
レッドブル・ホンダはコンストラクターズランキング2位へと浮上しましたが、
王者メルセデスとの差を実感させられるシーズンとなりました。
2021年シーズンは、王者メルセデスとレッドブル・ホンダのマシン性能差が
劇的に小さくなり、ドライバーズランキング、コンストラクターズランキング共に
激しい争いが見られています。